マラバール料理のメニューを理解したい
メニューを見てもわからない
ムンバイは人口ではデリーに次ぐ第2、経済では最大の大都市です。ムンバイにはインド中から人が集っており、様々な地域のインド料理を楽しむことができます。私は仕事でムンバイに行くことが多く、最近はレストランでメニューを見るとどんな料理かほぼイメージできるようになってきました。デリーやゴアに行ったときも概ね問題なかったので少し自信を持っていたのですが、たまたまマラバール料理のメニューを見たときにどんな料理なのか全くわからない料理名が並んでいました。マラバール料理はケララの北部、マラバール地方の料理です。アルファベットで書かれていてもマラーヤム語なのでムンバイでよく見るメニューとは全く異なっていてさっぱり分からずショックを受けました。
調子に乗っていたことを反省し、マラバール料理について整理することにしました。
マラバール料理とは

マラバール地方は、インドの最南端のケララ州の北部を指します。マラバール料理を語るには黒胡椒の存在が欠かせません。黒胡椒の原産地はケララの西ガーツ山脈(Western Ghats)湿潤なジャングル地帯です。1年を通して高温多湿で、モンスーンによる豊かな雨が降るケララの山岳地帯は、高品質の黒胡椒を育てるのに世界で最も適した地域でした。
ケララの黒胡椒は早くは紀元前から古代バビロニアやエジプトにフェニキア人を介して流通し、1世紀頃には既にモンスーンを利用してアラビア海を渡る海路が確立されローマ帝国にも運ばれました。
そして中世ヨーロッパでは、肉の保存や臭み消し、あるいは薬として、黒胡椒は同じ重さの「金」と交換されるほど貴重でした。当時黒胡椒はアラブ商人やヴェネツィア商人によって陸路での流通が独占されていました。それを打開すべく直接海路を開拓しようとしたことが大航海時代の引き金となります。
このような交易を通じて、ケララには非常に早い時期にキリスト教(聖トマス)、イスラム教、ユダヤ教が伝わりました。これらが古いヒンドゥー文化と混ざり合い、ケララ特有の多様性が当たり前の社会が形成されました。それに伴い料理も独自の発展を遂げていきます。
マラバール料理のバリエーション
マラバール料理は様々な文化が共存していることから、さらに幾つかのバリエーションに分類されます。主に宗教コミュニティ毎に独自の食文化を持っています。
- マッピラ料理(Mappila Cuisine)
アラブとケララが融合したムスリム料理です。交易の歴史を最も色濃く反映した肉料理の宝庫です。古代よりケララに移住したアラブ商人と現地ケララ人が築いた文化です。アラブ料理の影響を受けつつ、現地のスパイスをふんだんに使います。代表的な料理は、ケララ特有の丸い米「カイマ米」を使ったタラセリー・ビリヤニ、米粉の薄いパンであるパティリ、スレイマニというアラブ由来のブラックティーなどがあります。
- ナンプードゥリ料理(Namboothiri Cuisine)
ケララのヒンドゥー・ブラフマン(僧侶階級)の料理で、スパイスの引き算の美学が生んだベジタリアン料理です。厳格さを重んじるヒンドゥー教徒の家庭で守られてきた伝統料理で、肉・魚、卵は一切使いません。さらににんにくやたまねぎといった刺激の強い食材も避ける傾向があります。食文化的にはジャイナ教と似ています。代表的な料理は、サディヤというバナナの葉に20種類以上のおかずを並べる定食、アヴィヤルという野菜をココナッツとヨーグルトで和えたもの、オーランという白瓜と小豆をココナッツミルクで煮た優しい料理があります。
- シリア・クリスチャン料理(Syrian Christian Cuisine)
古くからのキリスト教徒の料理です。肉、魚を多用し、お酢を使うのが特徴です。多様性を象徴するパンチの効いたコクのある料理です。1世紀に聖トマスが伝導したと言われるシリア正教徒たちが現地のココナッツ文化に独自の肉食文化を融合させました。牛肉、豚肉、鴨肉などを使い、お酢や黒胡椒を多用します。代表的な料理としてはビーフ・ヴァラティヤトゥ(牛肉の濃厚なドライ炒め)、アッパム(発酵させた米粉のクレープ)、シチュー(ココナッツミルクベースのクリーミーなシチュー)、ミーン・モイリー(ココナッツミルクベースのフィッシュカレー)などがあります。
代表的なマラバール料理
マラバール・ビリヤニ / タラセリー・ビリヤニ (Malabar Biryani / Thalassery Biryani)

ビリヤニのライスはバスマティライスが多いですが、マラバール・ビリヤニは小粒のKhaima(カイマ)米を使います。
辛さは控えめでギーとカシューナッツのコクとフライドオニオンの甘さと香ばしさが効いています。その中でもThalassery Biryani(タラセリー・ビリヤニ)というのは米の種類、米と具の比率、スパイスの使い方などが厳格に決められた最高峰と言われています。
Kizhi Biryani

Kizhiは巾着状に包むという意味で、バナナリーフで巾着のように包んで蒸したビリヤニです。香りを楽しむビリヤニなのでスパイスはかなり控え目で、蒸し焼きにした際のバナナリーフの香りとバナナリーフが焦げて軽くスモークされた状態になるため香ばしい香りがします。ココナッツも使うことが多いです。
ビーフ・ウラルティヤトゥ(Erach/Beef Ularthiyathu)

ウラルティヤトゥは英語のFryにほぼ相当します。小さくカットした牛肉を大量の黒胡椒、カレーリーフ、スライスしたココナッツで水分がなくなるまで炒めたものです。ケララはインドでは珍しい牛肉を食べる地域で、基本水牛です。ドライな料理として似たものにヴァラティヤトゥがあります。違いは後述します。マラバール・パロタと一緒に食べるのが定番です。
似た料理にビーフ・ヴァラティヤトゥ(Varattiyathu)があります。英語のRoastに相当します。同じドライな炒めものですが、ウラルティヤトゥよりもさらに煮詰めた料理です。
ミーン・ポリチャトゥ(Meen Pollichathu)

ポリチャトゥはバナナの葉で包んで蒸し焼きにしたものを意味します。ミーンは魚です。シーフードが豊富なマラバールならではの豪華な一品です。具体的な魚の名前が付いていることが多いです。マサラまみれの魚にバナナリーフの香りがついてとても美味しいです。
チキン・マパス(Kozhi Mappas)

Kozhiはチキンの意味です。マパスはクリーミーなココナッツカレーです。辛さは控えめで、コリアンダーや黒胡椒、シナモンが中心の華やかな香りが特徴です。ケララのキリスト教徒の間で親しまれている料理で、クリスマスの定番メニューでもあるそうです。
重要キーワード
基本的に食材+調理方法なので組み合わせで理解することができます。「〜thu」は「〜したもの」という意味で、動詞や形容詞などを名詞化する接尾語なので、thuが付いていなくても気にしなくて良いです。ちなみにタミル語も同じ用法でtu(hが無く発音も強め)を使いますが両者は近い言語だそうです。
例)
- Meen(魚) + Pollichathu(包み焼きにしたもの)
- Buff(牛) + Ularthiyathu(炒め煮にしたもの)
余談ですがタミル映画「3(Moonu)」の劇中歌で社会現象にもなった 「Why This Kolaveri Di」という歌がありました。heart-uやnight-uのように文法など無視して英語に -tu や -u を付けてタミル語(南インド)風に崩した歌詞が話題になった歌です。
さらに余談ですがタミルにはジャリカットゥ(Jallikattu)という牛のこぶにしがみついて一定時間耐えるというお祭りイベントがあります。南インドにおける言語はドラヴィダ語系言語が多く、「トゥ」は何かが結実した結果を意味します。ジャリカットゥのトゥは牛の角に結び着けられた結びめ、ポリチャトゥのトゥは料理があるべき姿に完成した状態を意味します。ケララの映画で牛が暴走するジャリカットゥ牛の怒りという映画もありました。徒歩版マッドマックスとも言われた名作で、料理ネタも出てきます。お勧めです。
派手に脱線しましたが、料理の名前に「結実」という意味を持つマラバール料理は、そこに誇りが込められているように感じます。重要キーワードの整理を続けます。
食材(肉)
牛肉を表す表現が複数あることから、牛肉料理を愛する文化であることが伺えます。ムルグはヒンディです。共通語なので使われることが多いようです。
| マラーヤム語 | 読み方 | 意味 |
| Kozhi / Murg | コジ / ムルグ | 鶏肉 |
| Erachi | エラチ | 肉全般(水牛を指すことが多い) |
| Buff / Pothu | バフ/ ポットゥ | バッファロー(水牛)の肉 |
| Aadu / Mutton | アドゥ/ マトン | マトン |
食材(シーフード)
ケララは様々な魚のポリチャトゥがあります。Meenと書かれていることもあれば具体的な魚の名前が付いていることもあります。
| マラーヤム語 | 読み方 | 意味 |
| Meen | ミーン | 魚 |
| Chemmeen | チェミーン | エビ |
| Koonthal / Kanava | クーンタル / カナヴァ | イカ |
| Kallummakkaya | カルマッカヤ | ムール貝 |
| Ayila / Ayala | アイラ / アヤラ | サバ |
| Mathi | マティ | イワシ |
| Avoli / Pomfret | アヴォリ / ポンフレット | マナガツオ |
| Aiykoora / Surmai | アイクーラ / スルマイ | サワラ |
食材(ベジ)
パリップはスリランカの豆料理と同じ呼び方です。
| マラーヤム語 | 読み方 | 意味 |
| Kizhangu / Alu | キジャング / アルー | じゃがいも |
| Parippu | パリップ | 豆、ダル |
| Pacha Kaya | パチャ・カヤ | 食用バナナ |
| Cheera | チーラ | ほうれん草などの葉野菜 |
調理方法
以下を把握しておけばどんな調理方法か概ね分ります。ウラルティヤトゥとヴァラティヤトゥは似て非なるものらしいです。水分の量が微妙に異なるようです。またバナナの葉で蒸し焼きにするのと蒸すのとで呼び方が異なります(ポリチャトゥ、キリ)。このように調理方法を表わす言葉がとても豊富です。微妙な違いでも表現が異なるということは食に対するこだわりがそれだけ強い文化だと言えます。
注目すべきはヴァルタラチャトゥです。これはココナッツの実を炒ってすり潰したものという意味なのですが、この調理方法はインドネシア、スマトラの調理方法と共通点があることに気付きました。ルンダンを作るときに使うケリシクに似ています。この共通点については後述します。
| マラーヤム語 | 読み方 | 言葉の意味 | 料理の意味 |
| Pollichathu | ポリチャトゥ | 焦がした/焼いた | バナナの葉で包み焼きにしたもの |
| Kizhi | キリ | 包む/巾着袋状の | バナナの葉で包み蒸したもの |
| Varutharachathu | ヴァルタラチャトゥ | 炒る&すりつぶす | スパイスとココナッツを、香ばしく炒めてからすり潰したもの |
| Varuthathu | ヴァルタトゥ | 揚げた/炒めた | 油でしっかり揚げた、または焼いたもの |
| Ularthiyathu (Fry) | ウラルティヤトゥ | 水分を飛ばした | スパイスと和えて汁気なく炒め煮した(ココナッツオイルでじっくり炒めた)もの |
| Varattiyathu (Roast) | ヴァラティヤトゥ | 水分を飛ばした | スパイスと和えて汁気なく炒め煮した(煮詰めて濃縮した)もの |
| Puzhungiyathu | プジュンギヤトゥ | 茹でた | 茹でた、または蒸したもの |
| Mulakittathu | ムラッキタットゥ | 唐辛子を入れた | 唐辛子を大量に入れた真っ赤な料理 |
外来料理
〜thuなどが付いてなかったり、マラーヤム語でない料理もあります。これらは外来料理がインドやマラバールでローカライズされたものです。言葉的に分類するとビリヤニも外来料理扱いです。
| マラーヤム語 | 読み方 | 意味 |
| Ishtu / Stew | シチュー | シチュー。イギリスの影響だが、ケララではココナッツミルクをベースにしてスパイスは控えめ。 |
| Biryani | ビリヤニ | ペルシャ・アラブ由来。マラバール地方の Thalassery Biryani は、中東の貿易商たちが持ち込んだ文化と現地のスパイスが融合したもの。 |
| Cutlet | カトレット | 英語の “Cutlet”。コロッケのような料理ですが、ケララではスパイスを効かせた肉や魚のミンチを揚げたもの。 |
| Mappas | マパス | ポルトガル由来です。ココナッツミルクを使うシチューと似ていますがスパイスでカレー感が強め。 |
| Pao / Pav | パオ / パブ | ポルトガルの影響。四角いパンでムンバイでも良く見られる。 |
| Vindaloo | ヴィンダルー | お隣のゴア州が有名ですが、ポルトガル料理の “Vinha d’alhos”(ワインとニンニクの煮込み)が起源。 |
| Alsa | アルサ | アラブの「ハリース」という麦と肉の煮込み料理がマラバールに伝わったもの。 |
| Kuzhimanthi | クジマンティ | イエメンの “Mandi” が由来。地面に掘った穴(Kuzhi)の中で蒸し焼きにする調理法を指す。 |
その他
| マラーヤム語 | 読み方 | 意味 |
| Chor | チョール | ライス |
| Puttu | プットゥ | ココナッツフレークと米粉を混ぜ、細長い円筒に入れて蒸し上げたもの |
ケララとビーフの関係
先に少し触れましたが、ケララは牛肉を食べるインドでは珍しい地域です。この背景もケララの歴史を象徴する文化と言えます。
ケララ州は、他の州に比べて宗教構成が非常にユニークです。
- ヒンドゥー教徒: 約55%
- イスラム教徒: 約27%
- キリスト教徒: 約18%
イスラム教とキリスト教という、牛肉を食べる文化を持つ層が人口の約半分を占めています。ゴアも似た歴史の経緯で牛肉豚肉がOKだったりしますが、ケララはゴアと異なり一部のヒンドゥー教徒も牛肉を食べます。 ケララの社会では何を食べるかという食の好みが、他の州ほど厳格にカーストや宗教と直結していないそうです。歴史的に多様なコミュニティが混ざり合って生活してきたため、宗教の壁を超えた地域独自の食文化として牛肉料理が定着したのです。
ケララは古くから海外貿易で栄えたため、外からの文化を受け入れる土壌がありました。 また、ケララ州政府は、個人の食事の選択肢に政府が介入すべきではないという世俗主義的な姿勢を貫いています。歴史的に共産系左派政権が強いことも影響しているそうですが、これが他州では当たり前である牛肉禁止の動きに対する強い防波堤となっています。
食のタブーさえもマイルドに変えてしまった5000年の貿易史、その原動力が黒胡椒だったのも非常に感慨深いです。黒胡椒1粒1粒にこの歴史が宿っているのです。
海を越えたバルタラチャトゥ
ヴァルタラチャトゥについて調べたらどう見てもこれはケリシクでは、と思いました。約2600km離れていますが、何か歴史的にも接点があるかも知れないと思い追加で調べてみました。
ケララは黒胡椒の原産地ですが、スマトラ島やその先のモルッカ諸島(香辛諸島)は古代から中世にかけてアラブ人やインド人の商人が行き交う「スパイス・ルート」でした。
陸路の時代(大航海時代以前)
大航海時代以前からケララの黒胡椒はヨーロッパに届いていましたが、それは非常に長いバケツリレーでした。ケララのマラバール海岸→アラビア海→紅海・ペルシャ湾→陸路(キャラバン)→地中海→ヴェネツィア商人→ヨーロッパ各地というように長い距離を様々な人達を介して運ばれました。仲介するアラブ商人やオスマン帝国、そしてヴェネィア商人によりヨーロッパに届く頃には価格は元の100倍以上に跳ね上がっていたそうです。必然、ヨーロッパ諸国ではどうにかして直接入手できないかという動きが生まれました。それは独占すれば巨万の富が約束されていることを意味しました。
「海の道」の発見:ケララへの到達
1498年、ポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマが、アフリカの喜望峰を回り込んでケララのコーリコード(カリカット)に上陸しました。ヴァスコ・ダ・ガマはアラブ商人が受け継いでいたモンスーンルート(インド洋のモンスーンを利用したダイレクトにアラビア海を行き来するルート)に詳しい水先案内人をアフリカで見つけ、到達することができました。2度目の渡印でヴァスコ・ダ・ガマは武力により一部の港などを支配し、以後ヨーロッパ諸国はこのルートを利用するようになりました。大航海時代の始まりです。

そうしてケララの主要な貿易拠点を支配したヨーロッパ諸国(ポルトガル、後にオランダやイギリス)は、さらに希少なスパイス(クローブやナツメグ)を求めて東を目指しました。ケララ→セイロン(スリランカ)→マラッカ海峡→スマトラ島・ジャワ島→モルッカ諸島と、その勢力を延伸していきました。
スマトラ島はケララから東南アジアへ向かう際の入口のような位置にあります。元々インド系移民により黒胡椒は伝わっていたという説が有力ですが、この交易ネットワークの中でスマトラにおける黒胡椒の栽培は拡大し、栽培技術や調理技術がスマトラに伝わったり、逆に東南アジアのスパイスがケララに広く伝わりました。
もしもヴァスコ・ダ・ガマがカリカットに来ていなかったら、世界の美味しい料理の幾つかは存在していなかったかも知れません。しかしヴァスコ・ダ・ガマはポルトガルではインド航路を開拓した英雄ですが、彼の上陸はケララにとっては歓迎すべき変化ではありませんでした。ヴァスコ・ダ・ガマはカリカットの王に要求を飲ませるため街を砲撃もしており、インドとの出会いは武力衝突という悲劇的な始まりでした。しかしその後数世紀の時を経て、彼らが持ち込んだ食材(唐辛子など)や技術は、皮肉にも今の豊かなマラバール料理を形作る不可欠な要素となっていったのです。
同じくポルトガルが支配したゴアの歴史とも似ています。ゴアは450年に渡る直接支配がありましたがケララは既に交易の拠点として異文化を受け入れる土壌があったこと、また支配は一部の地域に限定されて、期間も限定的でした。ただ同じように侵略・支配者の文化と現地の文化が時間をかけて融和していった歴史の流れを感じます。どんな環境であっても生きていくという人間の強さ、そして憎い敵の料理であっても美味しいものは美味しいという食に対する情熱もあったのだと思います。
スマトラの料理への影響
スマトラの料理ではグライとカレという似たカレー料理がありますが、両者には明確な違いがあります。一言でいうと、グライは「南インド(ケララ等)の影響を受けて独自進化したスマトラの味」であり、一方カレは「よりインド料理に近い、後から入ってきた味」です。
グライ
スマトラ島、特にパダン(ミナンカバウ族)の料理を象徴する煮込み料理です。
- 形成された時代:13世紀〜15世紀頃
- スパイスの特徴: 生のスパイス・ハーブ(生姜、ガランガル、ターメリック、レモングラス)を多用します。乾燥スパイスのパウダー感は控えめで、フレッシュなハーブの香りが際立つ。
- ココナッツ: ココナッツミルクをたっぷりと使い、非常にクリーミーで濃厚。
- 色と味: ターメリックの鮮やかな黄色からオレンジ色が特徴。辛味はあるがココナッツの甘みが強くマイルドで奥深い。
- 位置づけ: インドの影響をベースにしつつも、東南アジアのハーブが主役となった完全なインドネシア料理。
カレ
インドネシア語でそのまま「カレー」を指しますが、グライよりも「インド料理」としての性格が強くなります。
- 形成された時代:18世紀〜19世紀頃
- スパイスの特徴: クミン、コリアンダー、シナモン、クローブといった乾燥スパイス(カレー粉に近い配合)の香りが強く前面に出る。グライにはあまり使われない、焙煎したスパイスの香ばしさがある。
- ココナッツ: あまり使わない。
- 色と味: グライよりもエキゾチックで、鼻に抜けるスパイシーな刺激が強い。
- 位置づけ: 貿易を通じて、後からより直接的にインド(または英領マレーシア経由)の影響を受けて定着したスタイル。
ルンダンとの共通点

ケララ、マラバールの料理がスマトラの料理、特にミナンカバウ族のパダン料理に影響を与えたということでルンダンのケリシクと共通点があることが分かりました。ヴァルタラチャトゥの調理方法がまるでケリシクだなあと思ったらやはりというかまさかというか、繋っていました。700年前にケララから海を越えてやってきたヴァルタラチャトゥがスマトラでケリシクとなり、毎月私は木臼でケリシクをとんとんして作っています。そう思うと当時の過酷な船旅や、ミナンカバウの人達が「調子に乗るな余所者!」と怒っていたり「これ美味しいね!」と盛り上ったりしている状況が見えるような気がします。もう何度思ったか分からないですが、スパイスは世界を巡り文化を届け、新たな文化を育んできたのだなあと感じます。
ルンダンに使うケリシクはココナッツのみを使いますが、マラバールのほうはスパイスも一緒に練り込みます。普段ルンダンを作っている身としてはマラバールのヴァルタラチャトゥは必修科目となりました。他にもケララ発の東南アジア料理はありそうです。
まとめ
「マラバール料理のメニューが分らない」からスタートして調べてみました。ちょうどこのタイミングでインドに滞在していたので、食事をほぼケララ・マラバールに集中して実際に食べてみました。ケララ・マラバール料理はココナッツとカレーリーフを多用します。特にココナッツに関してはミルク、生、ファイン、シュレッドなど様々な形で料理に取り入れられています。ココナッツをローストした香ばしさは本当に美味しいです。
そして今回整理した内容はもちろん全てではなく、まだまだ種類はあります。料理名は各地域の言語で表現されることが多いので、料理名を知ることは言語を知ることにもなります。似たものを表わす言葉の種類が多いほど、その対象に対する造詣が深いと言うことができると思います。ケララ・マラバール料理はその代表例とも言えると感じました。
そして予想外の展開でルンダンに繋りました。たいへん興奮しました。歴史は料理を際限なく美味しくしてくれる香りの無いスパイスだと思います。人類はスパイスを愛し、スパイスに狂い、スパイスと共に生きてきました。
今日もカレーが美味しいですね。
-
前の記事
現地系カレーを作る 2023.10.24
-
次の記事
記事がありません