マスタードオイルについて知りたい(その1)
マスタードオイル。
普段はあまり使わないけどたまにシーフード系のカレーのスターターのオイルにときどき使っている。
知識としては「煙が出るくらい高温に加熱すると香りが立つ」というくらいで、あまり良く分っていなかった。
ある日Twitterで「熱を加えた直後は強い香りでくらくらしたけど煮込んで良い感じになった」と投稿したところ、「煮込むとマイルドになりますか?」とコメントを頂いた。
しかし「そんな気がします」としか答えられず、あまりマスタードオイルのことを知らないなということに気付いた。
そこで今回はマスタードオイルについて勉強してみようということで、整理した結果と自分なりの考えをまとめてみようと思う。
事前知識
マスタードオイルって何だろ。事前知識として何となく知っていたのは以下。
・香りがとても強い
・マスタードシードから作る油
・健康に良いという話がある
・健康に良くないという話もある
・煙が出るくらい加熱すると良いらしい
・アーユルヴェーダで重視されてそうな印象
・ベンガル料理や南インド料理で良く使う印象
・加熱せずにアチャールに使うこともあるらしい
こんな感じで捉えていたが、どれもちゃんと調べて自分なりの結論を出したわけではなかったし、特に健康に対する影響としては良い話も悪い話もあるので、そこも今回は調べてみようと思う。そしてそれぞれの成分とその特性などからマスタードオイルををどうやったら効果的に使うことができるかを考えてみたい。
マスタードオイルとは何だ
マスタードオイルは、Wilkipediaによると2種類あって、
・マスタードの種子を絞ってできる植物油
・マスタードの種子を挽いて水と混ぜ、蒸気を蒸留して得られる精油
ということらしい。
熱を加えたり潰したりして破壊されると放出されるミロシナーゼによりシニグリン(カラシ油配糖体)が分解され、アリルイソチオシアネートが分離される。これが辛さの正体だ。特に蒸留すると92%以上のアリルイソチオシアネートを含む非常に鋭い辛味を持つことができるらしい。蒸留すごいな。
ただしこのときミシロナーゼは水分が無いと活性化しないらしい。
そのままだとどうなんだろう。試しにマスタードシードをそのまま食べてみた。噛み砕くとすこし苦くてほんのりカラシの味がするが、それほどでもないなと思ったら時間差でそこそこのからし感が口の中に広がった。なるほど細胞が破壊されてミロシナーゼさんが出てきてアリルイソチオシアネート様が分離されるのに必要な時間ということか。
これ、オヤツとしてもいけるかも知れない。実際に古代ギリシャやローマの文献にマスタードシードをそのまま食べていたという記録もあるらしいし。そのままかじると水分はそれほど多くないのできっとアリルイソチオシアネートの生成量は多くないのかも知れないけど、オヤツとして食べるには控えめで良いのではないかと思う。粒が小さいので微妙に食べにくいけど。いや、オヤツとしてだけでなく塩分少し加えてふりかけ的に白ごはんでもいけるんじゃないか。後で試してみよう。
辛みの秘密はなんとなく理解できた。香りはどうだろう。
マスタードオイルの香りの成分についてはあまり情報が得られなかったが、やはりアリルイソチオシアネートによるものと思われる。アリルイソチオシアネートは体温で揮発する。ということは加熱するとより多く揮発する。当然有限なので加熱しまくると最終的には香りも辛みも無くなるはず。これは「煮込むとマイルドになる」ことと一致する。加熱しはじめた直後に不快なほどの強い香りが出るのも説明がつく。これも後で実際に試してみることにする。
次にマスタードオイルの主成分を見てみる。主成分は以下。
- オメガ9系……エルカ酸47%、オレイン酸12%
- オメガ6系……リノール酸11%〜13%
- オメガ3系……αリノレン酸11%〜13%
- その他(飽和脂肪酸)
へー油って脂肪酸でできてたのか。
J-オイルミルズさんのサイトにやさしい説明があった。頭が良くなるらしいDHA(ドコサヘキサ塩酸)も脂肪酸だった。
てことは必ずしも油は体に悪いものばっかりではないということだな。オメガnは細胞膜の材料になったりする必須脂肪酸、つまり人間の体内で生成することができず食事から接種する必要がある脂肪酸の分類のことで、一般的にオメガ3:オメガ6=1:2が理想だけど現代人はオメガ6が過多となっているらしい。
もう少し調べてみる。油は脂肪酸が連鎖して結合した長ーい構造体が3本、グリセリンに結合した構造になっている。やたら構造が長いので動きにくい。これが油の粘性やぬるぬるになっている。加熱すると動きやすくなるので少しさらさらになる。
なるほど、いろんな脂肪酸が繋ってできたぬるぬるにいろんな香りや味を持つ成分が混ざってできてるってことだな。そしてその脂肪酸の種類や割合によって健康に良かったり悪かったりするということか。
マスタードオイルは体に悪いのか
それはさておき、マスタードオイルの脂肪酸の成分比で1番目につくのはエルカ酸47%。こいつがだんとつで多い。エルカ酸ってどんな性質を持ってるんだろう。調べると何だか悪役ぽい。心機能障害を引き起すとか。
これは良くないなあということで調べてみる。幾つか気になる情報があった。
- 心機能障害を引き起すほど毒性が強い。
- アメリカではエルカ酸を多く含むマスタードオイルは輸入および販売が禁止されている。
- かつては北インドやパキスタンで良く使われ、現代でもバングラデシュやベンガルでは良く使われている。
なるほど、なんだか危険な香りがする。
心機能障害を引き起す、毒性が強いという情報に「食用油脂構成脂肪酸の毒性」というレポートへリンクがあった。内容は難しいのであまり理解できてないが、このレポートは1970年代にラットを使った実験の結果で、特に人間への影響までは確認できていない。かつレポートの最後には「以上、日常、食餌として摂る食用油脂を構成している脂肪酸が生体膜リン脂質の分子種組成に質的な変化を起こさせること、そして、これにより生体膜の構造と機能に変化が生ずることを説明した。しかし、この分野の研究は始まったばかりで、今後にまだ多くの問題が残されており、さらに研究を進めていかなければならいと思っている」と結ばれていて、このレポートを根拠に人体に悪影響があると言えるかどうかは良くわからなかった。
卵は1日1個まで、それ以上は健康を害するという話は幼い頃からよく耳にしたけど、これもすごく昔の動物実験でコレステロールが体内で増えるという結果が独り歩きしたという話も聞いたことがある。実際には余分なコレステロールは対外に排出されるので1個以上食べても特に問題ないらしい。もちろん1日50個とか食べたら絶対健康に良くないと思うけど。
エルカ酸悪玉説もこの類いの話なのかしら。
後は、マスタードオイルが心機能障害を引き起すのであれば、バングラデシュやベンガルでは心疾患が多いはず。北インドやパキスタンでは近年心疾患が減っているはず。バングラデシュの統計を調べてみる。
これによると死因の第一位は心血管疾患(24%)。しかもこの20年間で4倍にも増えているらしい。分析として国が豊かになり、菜食中心から油を多用する肉や魚に変化したこと、それにより心疾患の一因となる高血圧者が急増しているという。どうでもいいけど外傷6%とか中毒5%って何だ。殺人事件とか麻薬中毒か? 確かにダッカの友人の自宅の周辺でもそこそこ事件は発生していたような。あとはバングラデシュで食べたベンガル料理はえらくアブリーで、でもどれも凄く美味しかった。
話を戻して、心血管疾患が一番多いということは確かにこれはマスタードオイルのせいである可能性も考えられるけどマスタードオイル以外のオイルもじゃぶじゃぶ使っているので高血圧者の急増はマスタードオイルだけが悪いと言い切るには少々無理があると思う。
そして先の食用油脂構成脂肪酸の毒性レポートではエルカ酸が生体膜の代謝を阻害する働きがありそう、というところまで論じているけど確定したとまでは言っていないし、高血圧を引き起すとも言っていない。あくまでも生体膜の代謝に影響を与えるというところまでだ。
しかも暑い国の人は心臓に負担がかかるらしく、寒い地域の人よりも心疾患が多いとも聞く。エルカ酸のせいなのかどうかまでは断定しにくいと思う。
一方、Wikipediaのアリルイソチオシアネートの項目には「がん予防剤としての多くの望ましい結果が出ている」とも書かれていた。
ここまで調べてみた結果、マスタードオイルは特別健康に悪いわけではないと思う。もちろん毎日1リットルとか飲んだら絶対体に悪い。毎日使うわけでもないし、普通にカレーに使うぶんには問題なさそう。
カレーのネタでブログ書こうと思っていたのに、マスタードオイルについて書き始めたら少々長くなってしまったので、今回はここらへんでいったん終了。続きは実際にマスタードオイルの料理方法や加熱による変化などを試してみた結果を、後日書きます。
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