この素晴しきバナナリーフ

この素晴しきバナナリーフ

バナナリーフを使う

インドやアジアではバナナリーフを使う料理がたくさんあります。私はたまにナシレマを作るときに使っていましたが、最近は間借り営業のときにも使っています。切って洗って拭いて炙る作業が必要ですが、その香ばしい香りとお皿を洗うのが楽で最近は手放せなくなりました。そしてよく考えたらバナナリーフについてあまり知らないなと思い、調べて整理することにしました。

バナナリーフについて詳しく

炙るとつるつるになる

バナナリーフをお皿として使うときは、洗ってから火で軽く炙ります。炙ると綺麗な濃い緑色にさーっと変化し、表面がつるつるになってお皿として利用できる状態になります。あっという間に色が変わっている様は見ていてとても楽しいです。

何故炙るのかというと、つるつるにするためと熱による殺菌のためなのですが、何故つるつるになるのかというとバナナリーフの表面に覆っている天然のワックス成分(クチクラ蝋といいます)が熱で解け出し、表面に均一に広がるためです。
クチクラ蝋の成分は乾燥や害虫から身を守るため白い脂質成分が粉のように薄く乗っています。炙る前のバナナリーフの表面に見える白い粉のようなものはこれです。
これが80度以上で加熱されると融解し、表面に一気に広がってつるつるになります。すぐに冷えて固まり、お皿として利用が可能になります。また加熱により適度に水分が抜け、細胞の結合が緩むことでしなやかで滑らかな質感にります。これを最初発見した人は感動しただろうなと思います。

バナナリーフを炙ることによメリットは以下のとおりです。これに気付いた昔の人が使わない手はないと思います。

  1. 破れにくく、包みやすくなる
    • 加熱によりしなやかになり、食材を包むことができるようになる。
  2. 独特の香りが出る
    • 加熱によりワックス層の内部に閉じ込められていた精油成分やポリフェノールが揮発して香りが出る。
  3. 天然のテフロン加工状態になる
    • 食材を包んで焼いたり蒸し焼きにしても食材がくっつかない。
  4. 衛生・殺菌効果
    • 雑菌や虫を加熱で一掃できる。

バナナリーフの歴史

バナナリーフで食材を包む料理は東南アジア、皆アジア、中南米、アフリカなどの熱帯地域を中心に世界中に存在しています。バナナリーフは天然の抗菌作用や保水性に優れ、加熱することで独特の香ばしい香りが出るので料理の風味付けとして利用されています。

包んで香りを移す料理としてはスリランカのランプライス、マレーシアやシンガポールのナシレマやオタオタ、インドネシアのレンバー、ケララのポリチャトゥやポティチョルゥ、タイやカンボジアのアモック、メキシコのコチニータ・ビビル、フィリピンのビビンカなどがあります。バナナの葉で包むことで香りを移すだけでなく直火を当てずに保水しながら加熱できるので香り高く蒸し上げることができます。肉や魚だけでなくケーキを焼いたりと幅広く活用されています。

このように世界中で利用されているバナナリーフですが、原産地はマレー半島やニューギニア島などの東南アジア・オセアニアなどの熱帯地域です。バナナの栽培は紀元前5000年〜3000年ごろに東南アジアで始まったと言われています。当時はバナナを果物としてではなく、身近で加工しやすい頑丈な葉っぱとして生活資材として利用されてたようです。そして紀元前2000年頃からオーストロネシア系民族の海洋ルートによる移動を通じて、バナナはインド、アフリカ、太平洋の島々に伝わりました。

こうしてバナナリーフは土器や金属の鍋が普及する前、もしくは一般庶民がそれらを入手できなかった時代に調理道具や食器の代替として大きな役割を果しました。保水性の高さから天然の蒸し器として、また使い捨ての食器として衛生面でも環境面でも非常に合理的な利用方法でした。

また特にインドにおいては宗教的な意味合いと社会的な制度による背景からもバナナリーフは重宝されました。ヒンドゥー教において非常に重要な概念である純粋さ(サットヴァ)は一度人が使った食器は不浄とみなされる傾向があり、そのため常に新品で清潔なバナナリーフのお皿は神聖な食事の作法とされました。また社会制度により人々の階級が強く意識されており、異なる階級の人のお皿を共有しないように使い捨てのバナナリーフのお皿が利用されました。これが現在の南インドのミールスのルーツとも言われています。

一方、現在は中南米でもバナナリーフは欠かせない調理素材ですが、中南米にバナナが持ち込まれたのはコロンブスのアメリカ大陸到達以降になります。16世紀のスペインやポルトガルの入植者、また西アフリカからの黒人奴隷の移動に伴い、カリブ海諸国や中南米にバナナの株が持ち込まれました。中南米では先住民族(マヤやアステカなど)はもともとトウモロコシの皮で食材を包んで調理する文化がありましたが、より大きくて便利なバナナリーフの登場により両者の文化が融合して現在のパステルやタマルなどのとうもろこし粉をバナナリーフで包んむ料理が生まれました。

このように最初は便利さによって広まったバナナリーフですが、プラスチックや使い捨ての紙皿が普及した現在も利用され続けています。クチクラ蝋の独特の香りとその機能性を両立する道具は人工の道具ではどうしても再現できないことが理由だと思われます。4000年前からバナナリーフを介した自然と人類の関わりが、そのまま現代でも続いているということにロマンを感じますね。

宗教的な意味

バナナリーフ(バナナの葉)には、特にヒンドゥ教仏教、そして東南アジアの東洋思想において深い宗教的・精神的な意味合いがあります。単なる身近な植物としてだけでなく、聖なるものや清浄な道具としてさまざまな神事や儀礼で重宝されています。異なる宗教・文化で同様に神聖なものとしての意味合いを持つということは、それだけ日々の生活において必需品であったのだと思われます。

ヒンドゥ教における豊穣・反映・神の宿り

インドやネパール、バリ島などのヒンドゥ教文化圏では、バナナの木(植物)自体が神聖視されています。

  • 神々の象徴:バナナの木は、維持神ヴィシュヌや富と繁栄の女神ラクシュミーの象徴とされています。
  • 結婚式や祝祭の装飾:バナナの木や葉は常に新芽を出し、たくさんの実をつけることから、「永続する愛」「子孫繁栄」「豊穣」の象徴とされています。そのため、結婚式場やお祭の会場の入口には、葉がついたバナナの茎が鳥居のように飾られることがあります。

清浄と不浄の概念

ヒンドゥ教社会では「清浄」と「不浄」の区別が厳格です。

  • 純粋性の保全:一度誰かが使った器(特に陶器など)は「不浄(他者の穢れがついたもの)」とみなされやすいため、神事や神聖な食事では、誰の手にも触れていないフレッシュで使い捨てができるバナナリーフが最も「清浄」なお皿として好まれます。
  • 神への捧げ物:神像やお寺に捧げる食べ物を盛る器としても、バナナの葉が一番ふさわしいとされています。

仏教・東南アジアの伝統における諸行無常とお供え

タイやミャンマー、ラオスなどの上座部仏教圏でも、バナナリーフは信仰生活と密接な関係があります。

  • 無常の象徴(仏教的教え):バナナの茎や葉は青々と大きく育ちますが、樹木のような硬い幹(木質)を持たず、実を結ぶとすぐに枯れて新しい芽に世代交代します。この性質が「実体がないこと」「世のすべてのものは移り変わる(諸行無常)」という仏教の教えの例えとして用いられることがあります。
  • 精霊(ナット神・ピー)や仏への捧げ物:タイの「ロイクラトン(燈籠流し)」で流す灯籠(クラトン)は、伝統的にバナナの幹の輪切りを土台にし、バナナの葉を精巧に折って装飾します。水の神様(プラ・メー・コンカー)へ感謝と謝罪を捧げ、自身の穢れを洗い流す儀式です。

ポティチョルゥ

先日ムンバイにあるケララ料理店のメニューでPothichoruという名前の料理を見つけて食べてみました。肉や魚をグレイビーと一緒にバナナリーフで包んで蒸し焼きにする料理(ポリチャトゥ)と名前が似ているので恐らくバナナリーフを使った料理だろうと予想して注文してみたところ、やはりバナナリーフに包まれていました。

大量のマッタライスと、バルタラチャトゥ(インドネシアのルンダンに似たココナツミルクで肉を長時間煮込んだ料理)と思われるカレー、トーラン、アチャール、サンバール、マサラオムレツ、チャマンティ(ココナツのふりかけを団子状に固めたもの)、プリッセリ(酸味のあるスープ)の豪華セットでした。ポティチョルゥはプレートというかミールスのような位置付けのようです。

見た目通り、バナナリーフの香りが全体の美味しさを底上げしています。インドネシア料理のナシレマとよく似ていますが、もともとケララとインドネシア、得にスマトラは古くから密接な交流があるので似た料理があることは必然だと思われます。

ポティチョルゥ

ミールスのマナー

南インドの定食、ミールスはバナナリーフの上に料理を並べます。そのマナーにはバナナリーフが大きく関係します。

右手で食べる

当然ですが右手のみで食べます。左手は器やコップを持ったり、水を注いだりするときだけ使います。親指、人差し指、中指、薬指の4本を使い、第二関節くらいまでを使います。手のひらは使いません。

食べる前後

食べる前にまずバナナリーフが置かれます。そして少量の水が振られます。これを右手で葉の表面全体に伸ばして手間に向かって水を切ります。これが食事スタートの合図になります。
食事が終わったら、バナナリーフを折りたたみます。必ず自分側(手前)に折ります。逆に折るのはお葬式のときの作法になるので間違えないように注意が必用です。

葉の向きとおかずの配置ルール

葉は先端(細いほう)が左側、根本(太いほう)が右側になります。そして上半分はアチャールやヨーグルト、デザート、副菜が味の濃いもの、汁気の少ないものが左から右へと並びます。下半分にはメインとなるライスが盛られます。

食べる順番もルールがあるのですが、それほど厳密に守らなくても深刻なマナー違反にはならないと思います。

おかわり

通常隙あらばお代わりを食らわそうと店員さんが虎視眈々と狙っています。バナナリーフ上にお代わりを置くスペースがあればリクエストしなくても載せてくれることもあります。リクエストしたいときはスペースを確保した上で目線を送ります。そうすると盛ってくれます。

おなかが一杯になってもうお代わりは不要になったら、終了のサイン(バナナリーフを手前に向けて折りたたむ)か、お代わり追加しようとしたら掌でブロックしつつNo, Thank youとかマティ(Mathi、マラーヤム語)とかポディム(Podhim、タミル語)と言います。

バナナリーフテクノロジー

1年間腐らないバナナリーフ

バナナリーフは数日で変色は始まり、1週間もすれば使えなくなってしまいます。通常は炙ったあとに冷凍して保存しますがフレッシュなバナナリーフからの劣化は避けられません。2010年、インドのタミルナドゥの当時11歳の少年が、近所の農家が保存方法がないために大量のバナナの葉をゴミとして廃棄しているのを見て「この葉を生物学的に強化できないか?」と思い、自宅に作った簡易的な研究所で試行錯誤を始め、科学物質を使わずに1年間葉を新鮮に保つプロセスを発見しました。

そこからさらに4年間の研究開発を重ね、細胞レベルで葉を強化して防腐性を高める「細胞強化技術(Cellular Enhancement)」として技術を完成させました。そしてテキサスで開催された国際発明フェアでこの技術が評価され、初の国際的な賞を受賞し世界中から注目を浴びるようになります。

この技術の根幹は、

  1. 細胞壁の強化(バイオ技術): 化学物質を一切使わず、葉の細胞膜や細胞壁そのものを人工的に強化するバイオ技術(Bio-augmentation Technology)が使われています。
  2. 病原菌のブロック: 腐敗の原因となる微生物や病原菌の侵入を完全に防ぎます。
  3. 自然なままの長期保存: 収穫してから1年間はみずみずしい緑色を保ち、その後は色が変化しますが、最長3年間は素材として腐らずに形状を維持 できます。

具体的なプロセスは公開されていませんが、適切な加圧・減圧により生物としての機能を強化し、老化する機能を定価させるための天然成分を浸透させ、加熱と乾燥によりそれらを定着させる方式のようです。

この技術によってバナナリーフは強度も増し、さらに極端な気候にも耐えられ、使用後は土に還るというプラスチックの代替として大変注目を浴びています。植物を原料とするバイオマスプラスチックや生分解プラスチックとはまた違うアプローチであり、これでカレー屋さんのバナナリーフ入手困難問題はかなり解決されるのではないでしょうか。しかし日本にはまだこの強化バナナリーフは入ってきてはいないようです。カレー屋としては香りもキープされるのがが気になるところですが、加熱のプロセスがあるとすれば、その温度にもよりますがある程度の香り成分の揮発は免れないかもしれません。

URL: https://bananaleaftechnology.com/

まとめ

急にバナナリーフが気になっていろいろ調べてみました。紀元前から我々人類がバナナリーフを今とほとんと同じ用途で使っているということになんだか嬉しくなりました。
伝統料理の面白さというか、自然と人間の関係が長い時間を超えて今に繋っている形を楽しむことができるというのは本当に幸せなことだと思います。

飛躍して強化バナナリーフまでいってしまいましたが、夢ありロマンありのバナナリーフのお話でした。